しかし代々貧しい農家であった野口家の先祖が耕していたのは、國之介の胸近くまで沈み込むような水田。米が豊かに実るにはあまりに深すぎたのです。
そこで思い立った國之介は、当時霞ヶ浦に自生していた蓮根を植え付けたところ、素晴らしい蓮根を収穫することができたと伝わります。深い水田の土壌は、水辺の植物の腐葉土が永い年月をかけて堆積して作られた泥でいました。それは、絹を思わせるような繊細な泥でした。
この「泥」こそ、蓮根が生育するのに最適な土壌だったのです。
國之介が栽培し始めたのは、「ヤナギ」(柳蓮)と呼ばれる蓮根でした。原生種に近い品種とされ、柳の葉を思わせる形状をしています。ヤナギは生命力が強く、地下深くに潜り込む特徴があります。
当時は現代のような機材や設備はありません。蓮根田の水を抜き、小さな鍬を使って一つひとつ手作業で掘り取りをしていたと伝わります。